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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)1898号 判決

第一 差止請求について

一 原告の商標権

請求原因一の(一)の事実(原告が本件商標の商標権者であること)については当事者間に争いがなく、同(二)の事実(原告がその主張の如き連合商標の商標権者であること)については被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

なお、成立につき争いのない甲第一号証によると、本件商標の登録当時の権利者は訴外日本ゼオラ株式会社であつたが、昭和三九年九月一〇日原告がこれを譲受け、同年一二月四日にその旨の登録手続を了したものであることが認められる。

二 被告の標章使用

いずれも成立につき争いのない甲第一七号証、第二六号証、いずれも原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認むべき甲第二七、第二八号証、右本人尋問の結果によりいずれも原告主張の店舗で購入されたと認むべき検甲第六五ないし第六八号証(それが被告の製品であることについては争いがない)と同じく右本人尋問の結果により原告主張の写真と認められる検甲第七〇、第七一号証、証人喜多村忠の証言ならびに右代表者本人尋問の結果によると、被告は昭和五二年一〇月頃から同五三年四月二〇日頃までの間(イ)自社が業として販売する本件ブラシの包装である容器(外箱)にイ号標章(1)の「ETIQUETTE FRIEND」なる標章を付し(その具体的態様の一例は別紙(四)外箱模様図のとおり)、(ロ)これを東京、大阪その他全国の各都市にある百貨店、スーパーマーケツト、小売店等千数百に及ぶ店舗で販売していたほか、(ハ)自社で発行する月刊雑誌「リリカ」昭和五二年一一月号では右商品を「エチケツト」ブラシと表示して広告し、また自社発行の昭和五二年一〇月から同五三年四月までのカタログコードでもこれを「エチケツト」ブラシと表示して前記百貨店等の販売店に頒布していたことが認められ(但し、右外箱および雑誌「リリカ」での標章の使用自体については争いがない)、右認定に反する証拠はない(なお、前掲甲第二七、第二八号証、検甲第七〇、七一号証によると、前記百貨店や小売店の中には、その店頭売場でのプライスカードやこれを販売したときに発行する領収書に本件ブラシのことを「エチケツト」ブラシと表示しているものが存することが認められる。そして、右の如き表示がなされるのは、被告が前記イ号標(1)(2)を使用しこれを表示したカタログコードを頒布したことに起因すると考えられるが、右表示自体が被告の指示によるものであることないし被告の意思に基づくものであることを認めさせる証拠はない)。

前掲証人喜多村忠の証言の中には右雑誌「リリカ」の表示はその編集担当者の過誤によりなされたものである旨原告の主張にそう供述部分があるが、右カタログコードでの継続的使用の事実に照らすとたやすく採用できない。

三 本件商標とイ号標章の同一性ないし類似性

そこで、以下、被告の使用するイ号標章(1)、(2)と本件商標の同一性ないし類否につき検討する。

(一) 商品の同一性

前掲検甲第六五ないし第六八号証によると、右イ号標章の使用対象商品である本件ブラシはいわゆる洋服ブラシであつて、本件商標の指定商品に該当することが明らかである(商標ニ関スル審判其ノ他ノ手続ノ費用及登録ニ関スル件―大正一〇年勅令第四六四号、旧商標法施行規則―大正一〇年農商務省令第三六号―第一五条の規定による商品類別第六四類参照)。

(二) 標章の類否

1、まず、イ号標章(1)「ETIQUETTE FRIEND」について検討する。

(1) 右イ号標章は「ETIQUETTE」と「FRIEND」という二つの英単語が結合して成る文字標章であり、これを一体としてみるときは、一応、被告主張の如く「エチケツトフレンド」なる称呼を生じ、「礼儀作法の友だち」あるいは「礼儀ある友だち」との観念を生ずるものといい得る。

(2) しかしながら、右標章を構成する「ETIQUETTE」と「FRIEND」の両部分はそれぞれ独立してすでにいわゆる外来語として日本語化している(すなわち「エチケツト」と「フレンド」として単独で日本語になつている)といつて差支えなく、語義においても構成においてもこれを不可分一体のものと解さなければならない必然性はない(なお右「ETIQUETTE」と「FRIEND」との間に半字程の空白があり、分離して表示されている点も参照)。

(3) そして、一般の取引者あるいは需要者がこれを呼称する場合、それがやや冗長であることもあつてその前半部分である「ETIQUETTE」(エチケツト)の部分によつて略称せられる蓋然性があると考えるのが経験則に照らし相当である(殊にこれを使用対象商品名と合わせて呼称しようとするときは、「エチケツトフレンド」ブラシとなり冗長に過ぎることは明らかであり、この点前記二(ハ)の場合のように被告自身右標章を単に「エチケツト」と略し、「エチケツト」ブラシと表示している点参照)。

(4) してみると、右イ号標章からは「エチケツト」なる称呼、観念を生じあるいは「礼儀」、「作法」という観念が生ずるというべきである。

(5) 以上のとおりとすると、右標章「ETIQUETTE FRIEND」は本件登録商標「エチケツト」と外観を異にし同一ではないが、その主要部の称呼、観念は同一であり全体として類似すると解すべきである。

(6) 被告は前記標章を構成する「ETIQUETTE」と「FRIEND」は不可分一体のものとして称呼、観念されるというが、その採り得ないことは前示のとおりである。また、「ETIQUETTE」と「エチケツト」の発音の相異をいう点も、「ETIQUETTE」がすでに日本語化しているものであることからみて到底採用できない(なお、原告がその主張の如き連合商標を有しており、特許庁が「ETIQUETTE」と「エチケツト」を類似すると認めている点も参照)。

2 次に、イ号標章(2)「エチケツト」についてみるに、右標章の書体を注意深く観察すると、それは本件商標の書体と異なるものではあるが、しかし、両者はいずれも片仮名文字から成るものであり、称呼、観念を全く同じくするものであるから、右標章は本件商標と同一であると解するのが相当である。

3 以上のとおり、本件イ号標章(1)、(2)は、本件商標と称呼、観念ともに同一であるか(右(2)のもの)、その主要部において同一の称呼、観念を生ずるもの(右(1)のもの)であるから、かかる標章が本件指定商品と同一の商品に使用された場合にはその商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれのあることは明らかである。

したがつて、右イ号標章(1)(2)は本件商標と同一((2)のもの)ないしは類似((1)のもの)するというべきである。

4 被告は本件外箱にその主張の如きキヤラクターや標章が付されていることおよび被告商品は特別に被告商品だけを集めた特設コーナーで販売されることを理由に原告の商品と誤認混同されることはあり得ない旨主張する。そして、前掲検甲第六五ないし第七一号証および証人喜多村忠の証言によると、被告が理由とする右事実自体は一応肯認することができる。

しかし、右の関係は末端の消費者が前記のような店頭で被告製品ブラシを購入する場合だけに妥当するにすぎないと考えられる。その他の取引場面、生活場面においてことに称呼だけで商品を特定するような場合の混同はなお避け難いと思われる。

また、もともと本件は前記の如く本件標章(1)、(2)が少くとも称呼、観念の二点にわたつて本件商標と同一または類似している場合であつて、右二点にわたる同一性、類似性は一般にはそれ自体強く誤認混同のおそれを事実上推定させるものであることに留意すべきである。

したがつて、本件では前記の如き事実があるからといつて、それが直ちに誤認混同のおそれを完全に解消するものとは考えられず、結局、被告の前記主張は失当である。

四 本件商標権侵害の成立

(一) 以上のとおりとすると、被告が(1)前記のように「ETIQUETTE FRIEND」なる標章を用いること(前記二(イ)(ロ)の場合)は本件商標の指定商品と同一の商品にこれと類似する商標を使用することになるので原告の本件商標権を侵害するものとみなされるべきものであり(商標法三七条一号、二条三項一、二号)、(2)また「エチケツト」ブラシなる表示を用いること(前記二(ハ)の場合)は原告の本件商標権そのものを侵害するものであると解される(同法三六条、二条三項三号)。

(二) 被告は本件イ号標章(1)は本件外箱の図柄の一部として表示されたものであり商標として使用されたものではないので、これにより商標権侵害の問題は生じない旨主張する。

しかし、もともと文字を図柄の構成部分と考える見解自体首肯できないし(意匠法上の意匠が文字を捨象していると解される点参照)、本件でも右標章の前示使用態様(別紙(四)外箱模様図参照)をみると右標章が単に本件外箱の図柄の一部として表示されたものでないことは明らかである。このことは被告自身右標章を商標として登録出願していること(成立につき争いのない甲第一九、第三五号証、前掲喜多村証人の証言、但し、それが果して登録されるべきものであるか否かは別問題である)からみても裏付けられる(なお、被告が提出した乙第一号証の鑑定書でも右標章は商標と認められている点も参照)。

五 差止請求の必要性

前掲証人喜多村忠の証言によると、被告は、昭和五三年四月二〇日頃前記イ号標章(1)、(2)の使用を禁止する旨の仮処分(当庁昭和五三年(ヨ)第一三六五号事件)の執行を受けたので、直ちに、本件ブラシの販売を停止して店頭商品を回収し本件外箱を廃棄し、その後は本件ブラシの製造販売を中止していることが認められる。

しかし、右は前記仮処分の執行自体によつて生じた事実状態にほかならないと解されるから、本案においてはこれを考慮すべきではない。また、被告においてイ号標章(1)について現に商標登録の出願中である等の事情に照らすと、その登録の成否いかんにもよるであろうが、被告において今後イ号標章(1)、(2)を使用する意思を全く有していないとは断定できない。

六 結論

以上のとおりであるから、原告の本件差止請求は理由がある。

第二 損害賠償請求について

一 被告の前記侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもない。また、右違法行為は過失によつてなされたものと推定される(商標法三九条、特許法一〇三条)。

そうすると、被告は右行為によつて原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二 しかるところ、被告が本件ブラシを販売して原告主張のとおりの利益を得たことについては当事者間に争いがない。

そして、原告が右利益額は原告が受けた損害の額と推定される(商標法三八条一項)と主張するのに対し、被告はその因果関係を争い、かつ原告に現実に右利益相当額の損害が発生したことを否定してこれを争うので、以下、この点につき検討する。

三 いずれも成立につき争いのない甲第二〇ないし第二三号証と乙第三号証と第四号証の一、二、前掲検甲第一ないし第六八号証、第七〇、第七一号証ならびに前掲証人喜多村忠の証言と弁論の全趣旨を総合すると、原告のブラシ商品はいずれもその品質、性能ないし機能の優秀さあるいは実用的な有用性等右商品そのものの価値に着目して取引されるものであるのに対し、被告がイ号標章を使用して販売するブラシ商品はいずれもその容器等に付されたキヤラクターや製品の形態の可愛らしさ、楽しさあるいは親しみ易さ等これらのものがもたらすイメージがその販売にあずかつて大きな力をもつものであること、したがつて、その需要者も原告商品の場合は通常の日常生活に使用されるものとして広く一般消費者がその対象となると考えられるのに対し、被告の本件ブラシの場合はギフト商品として利用されることも多く若年少の子女がその主な需要者となるものであることが認められる。

四 そして、右の如き商品自体の用途用法の相異や需要者層の違い、また、被告のブラシ商品の購買力は専らその独自のキヤラクターに起因し、使用標章自体にはあまり顧客吸引力はないと思われること等を総合考慮すると、本件の場合、被告の得た該商品売上利益の全部が即前示侵害行為により生じた損害とみることは相当でない。すなわち、本件については商標法三八条一項所定の損害額に関する推定は覆えされていると考える。

五 もつとも、右の帰結は、原告の財産的損害が皆無であることを意味するものでないことはいうまでもない。原告が被告の前示侵害行為によつて相応の損害を蒙つたことは否みえないところである。そしてこのような場合の損害額算定についてはすすんで同条二項(当該商標使用料相当額を損害額とみる規定)を適用することができると解すべきであり、この点に関する原告の弁論の全趣旨を善解すると原告は右法条項を適用すべきことをも当然主張していると考えられる。

しかるところ、被告が原告主張の期間中に本件ブラシを二三万七九〇〇個販売したことは当事者間に争いがなく、前掲甲第二六号証と証人喜多村忠の証言および弁論の全趣旨によると、右ブラシの小売価格は一個当り金二三〇円であることが認められ、また本件商標の使用料は右単価の三パーセントと認めるのが相当である。

そこで、これにより原告の損害額を算定すると、その額は金一六四万一五一〇円となり(二三〇円×〇・〇三×二三万七九〇〇(個)=一六四万一五一〇円)、原告は被告に対し右金額の損害金の支払いを請求し得るものである。

第三 信用回復措置(謝罪広告)請求について

一 原告は被告の商品が原告の商品に比して粗悪であり、かつそれが同じ売場で混同して販売されたため原告はその業務上の信用を害せられた旨主張する。

二 しかし、いま、右両商品の品質上の優劣はしばらくおくとしても、右両商品が同じ売場で混同して販売されたとの主張についてはこれを認めるに足る証拠はない。かえつて、被告の商品が他社の商品と区別せられた特設コーナーで販売されていることは前示のとおりである。

そして、原告が被告の前示侵害行為によりその業務上の信用を害されたことの具体的内容は明らかにされておらず、これを認むべき証拠もない。

よつて、これを前提とする原告の右請求は理由がないというべきである。

三 原告は被告が商標権の重要性を認識しながら前記侵害行為に及んだとしてその悪質性を強調しており(請求原因六、特にその(四)、(五))、現に、いずれも成立につき争いのない甲第一八、第一九号証、同第三二号証、同第三四、第三五号証や前掲喜多村証人の証言によると、右請求原因(四)、(五)で主張せられているような客観的な事実(内容証明郵便による応答や被告の登録出願あるいは被告の他社への別件謝罪広告要求の事実)はこれを肯認することができる。そして、右事実に照らすと原告が被告の態度に誠意がないとするのもあながち理解できないわけではない。

しかし、右のような事実関係だけで直ちに原告主張の如き信用回復措置を命ずるのを相当と解するのは困難である。前示の如く業務上の信用を害せられたことが明らかでない以上、原告の右請求は理由がないと解すべきである。

第四 結論

以上のとおりであるから、原告の差止請求は理由があり、損害金請求についても第二において判示したとおり金一六四万一五一〇円およびこれに対する本件昭和五三年五月三〇日付訴の変更申立書送達の翌日である昭和五三年六月二日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるが、その余の部分の請求および謝罪広告の請求は理由がない。

よつて、原告の本訴請求は右の限度でこれを認容する。

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